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スキルを棚卸しすればどこでも働ける―元freee社員が選んだ”ロジカル移住”の道

都会の喧騒を離れた場所で生活を送りたい――。誰しも一度はそんな憧れを抱くもの。でも、そこで壁となるのが、仕事の存在ではないでしょうか。freeeの元社員・井領明広さん(26歳)は、今年5月に長野県上田市の別所温泉に移住、起業しました。縁もゆかりもない土地で起業しようと思った理由を聞きました。

自然が好きで、どこでも働けることを実現したい

――まず現在のお仕事について教えていただけますか?

私が立ち上げた「つづく株式会社」では、「テクノロジーの力で、商売が『つづく』を当たり前に」というビジョンを掲げて、バックオフィスのコンサルティング事業とfreeeのトレーニング事業を行っています。

起業して改めて実感しましたが、経理や勤怠、給与計算、タイムカード、売上計算、振込作業など、個人事業主がやらなくてはいけないことは想像以上にあります。日本は労働生産性が低いといわれますが、海外に目を向けるとこうした業務はITサービスや効率化されたノウハウを使って手間を大幅に削減しているのです。私はこのグローバルスタンダードを、日本の中小企業にもたらしたいと考えています。

――これまでのキャリアで得たITや会計の知見を生かしているわけですね。移住を考えたきっかけはなんだったのでしょう?

移住したかったというより、“どこでも働ける”ということを実現したい気持ちが元々あったんです。それに、自分のライフスタイルにあった土地で、今持っているスキルを活用して働きたいという気持ちも。

だから、一人で外に出ても使えるような人材になる、と昔から決めて働いていました。自分のスキルを客観的に評価・棚卸しをして、いつでもチャレンジできる状態に研いでおくことは、これからの時代には必要なのかなと思うんです。

――“ビジネスチャンスがありそうだから長野を選んだ”というわけではない、と。

そうですね。私は、自然と温泉、それに自転車やドライブが好きで。だから、広い土地で、土地のものがおいしくて、土地の人が面白くて景色がいいところで働きたい、いや、生きていきたいと思っていたんです。たまたまそれに合う場所が長野だったということです。

不思議な話で、昨日、ほかの土地へ移住して仕事をされている方のお話を聞いたのですが、同じことを言っていました。その人は元々、不動産のマンション管理の仕事をしていたようなんです。気に入ってその土地を何度か訪れるうちに移住しようと思ったら、空き家率の高い地方都市で、管理業務のスキルが役に立ったと。

ビジネスチャンスを見つけなくても、自分にできることをわかっていれば、場所を変えるだけで同じ仕事でもより価値が生まれることはあると思います。

移住を決めたら、準備はどうする? うまく進めるコツは?

――長野に移住しようといざ決めた後、まず何をしましたか?

長野で働いている人や事例を知りたいと思ってネットで検索しましたね。「長野 創業している人」「長野 ベンチャー」、「長野 起業」などの単語を入れて。すると、2人出てきました。

上田市にあるコワーキングスペースHanalab.の代表・井上さんと、地元の産品をギフトパックにするビジネスをしている地元カンパニーの児玉さん。この方たちが情報発信をして、田舎の良い側面を捉え、そこでしかできないことをビジネスにしていたんです。これは面白い! って思いましたね。

すぐにアポを取ったら、翌日にたまたま東京にいるということだったのでお会いして。どんな仕事を始めたらいいのか、家や引越しに関係する移住の話、そして、その土地にいる人たちのキャラクターについての話もしましたね。そこが出発です。

――それはいつ頃のことですか?

今年の1月2日です。正月に精神統一していたら、長野に移住しよう! って考えが降りてきて(笑) 。考えたら即行動するタイプなので、そこから計画し、5月に法人設立まで持っていきました。途中、地元の商工会の人やコワーキングスペースの方々とお話をして、freeeのセミナーなども積極的に開催していきました。

写真提供=井領明広さん

――地方はコミュニティが閉鎖的であるともいわれます。短い期間で決断した移住をうまく進められたポイントは?

きっかけはHanalab.の井上さんと話したときに、「(コワーキングスペースには)フリーランスが多いから、バックオフィスの効率化に関するセミナーしない?」って言われたこと。その参加者のなかに一級建築士のデザイナーさんがいました。その人はちょうど古民家をリノベーションしたシェアハウスを立ち上げている最中でした。それでいろいろ相談して、結局その別所温泉にあるシェアハウスに住むことにしたんです。

それで、ここがポイントなんですけど、その大家さんが移住の先輩だった。大家さんも、富山から東京に出て、この別所温泉に移住してきた方なんです。なので、その人を通じて町のルールを知れたし、大家さんは地元の人も来られるシェアハウスのイベントを企画して、仲良くなる機会を提供してくれた。「何か困ったことがあったら、いつでも言ってね」と、言ってくれて。すごい大家さんです。

Hanalab.さんや大家さんなど、移住の先輩、導き手となる人を見つけたこと。これが、私がうまくやれている理由の8割は占めると思います。

移住先での起業、過去の経験によって生きたスキルと苦労していること

――移住先で起業したことについて、これまでのキャリアはどのように役に立ちましたか?

freeeでの経験でいえば、会計の知識はもちろんですが、営業と事業の進め方も役立っています。営業に関しては、メールやSNS、電話で顧客との関係を温めて育てていくようなインサイドセールスをしていたので、この経験がとても生きています。それと、日々のKPIを立て、PDCAを回す仕事の進め方も今に生きていますね。

あとは多様な働き方をしている人が多い環境にいられたことも大きいです。freeeの社員であると同時に、税理士や中小企業診断士、音楽カレッジの講師をしている人もいますから。

みんな、自分のどのスキルを切り売りすればいいかがわかっているので、こういう人たちの存在はとても参考になりました。

――地方ならではの仕事のコツがあれば教えてください

東京にいたときはそこまで思わなかったのですが、私のいる地域は東京の比じゃないほどFacebookイベントが活発で。だから、Facebookで告知するのと同時に、対面での接触を多くするように心がけています。セミナーは商工会議所の会議室を使って、地元の人と多くの接触を図るのも意識的に行っています。

――地方の特性もつかんで、順風満帆のように見えます。とはいえ、すべてスムーズというわけには……。悩みや困りごとはなかったのでしょうか?

もちろん、いろいろありますよ。なかでも一番苦労していることは、メッセージの伝え方ですね。東京と比較すると、素地にある文化やリテラシーレベルが違うんです。今、社員同士で頭を悩ませているのは、いかに売り物をわかりやすく伝えるか。

特にITに触れてこなかった方に多いのですが、少しでもなじみのない難しそうな単語を口にすると「私には関係ないわ」って自分には関係ないと思われてしまう。たとえば、「ITを使ってバックオフィスを効率化しますよ」って言うと、「ああ、俺には難しい。悪いな坊主」って(笑)。だから最近は「事務や紙を減らしましょう」とか「事務作業をこちらでお手伝いしましょうか?」という言い方から入るようにしています。

移住して本当に良かったのは、自分の好きな場所で働けること。気分転換に上田市以外のコワーキングスペースに行ったり、山の上で仕事したりとか。通勤電車に乗らなくてもいいことも利点です。

あと、コワーキングスペースで仕事していると、案件が舞い込んでくる。目の前の税理士の人にお昼を誘われて、「自分のところにも営業に来ればいいのに(笑)」と言われたことも。こうしたつながりが生まれて自由な働き方ができているのはうれしいですね。

東京でインプットして長野でアウトプット……感じるのは費用対効果の大きさ

――大変なことはありつつ、充実した日々のようですね。なんだか東京の利点ってなんだろうって思ってしまいますが……。

いや、離れて改めて思いますが、東京はメチャクチャすごい点がありますよ。人と情報の多さ。これは絶対です。昨日会った地方移住の先輩も、最初は東京でお会いしました。Hanalab.の井上さんもセミナーを開催した富士見町森のオフィスを運営している津田さんも移住組で、地元の人でも活発に活動している人は、一度は東京で働いた人が多いです。やっぱり東京の人と情報は面白いです。

――もしかして、東京と長野を行ったり来たりしています?

してます。1カ月に3、4日くらいは東京にいますね。東京でインプットして、長野でアウトプットする生活です。生活と仕事は長野でしたい、でも面白い人には会いたいから東京に来ます。

私は「ロジカル移住」なんですよ。移住した方がROI(投資対効果)が高いと思っているんです。東京には多くのベンチャー企業がありますし、立ち上げても最初は誰も知らないし、いきなり話題になることも少ないじゃないですか。でも地方だとインパクトがメチャクチャ大きい。上田市内で僕が何かサービスを立ち上げたりすると、すぐに周りが興味を持ってくれたり、相談に来てくれたりして、まさに地方はブルーオーシャンなんです。

――移住を考えている方に、一言アドバイスをお願いします。

今は、自分のスキルを棚卸しできていれば、好きな場所で働ける時代だと思います。freeeみたいなITサービスが整ってきているので、これは自信を持って言えます。

移住の先輩というケースモデルを見つけ、自分のスキルを棚卸ししておく。この“お作法”に則れば、起業に限らず、移住先での再就職も差異はないと思います。こうした働き方をする人がもっと増えたらいいですね。

(芋川健+ノオト)

  • 井領明広さん

    取材協力者:井領明広さん

    つづく株式会社 代表取締役社長。2012年に早稲田大学商学部を卒業後、株式会社NTTデータグループの会社に入社。2015年にfreee株式会社に転職し、主に営業職として活躍。2017年3月に退職した後、5月に起業。

  • ライター:芋川健

    編集者・ライター。1987年生まれ。医療系出版社で雑誌編集を経て、フリーペーパー『R25』に在籍。マネー、IT、グルメなど幅広く担当。現在はフリーで活動中。メディア系人材が集まるサバゲーチーム・MEDIARANGERSに所属

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