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博報堂DYグループの社内起業でキャリアチェンジ 社員でありながら社長になれる制度の良しあしは?

まったく新しい事業にチャレンジしたいと思ったとき、通常は転職や独立といった大きなキャリアチェンジを迫られるものです。しかし、会社によっては「社内起業」の形で、会社員でありながら「社長」になれる制度を設けているところもあります。

今回は、2010年より社内公募型ベンチャー制度「AD+VENTURE(アドベンチャー)」を実施している博報堂DYホールディングスを直撃。実際に制度を利用して会社を立ち上げた人、そして制度を運用する事務局担当の2名からお話を伺いました。

お話を伺った人

  • 大西雅之さん

    大西雅之さん

    株式会社博報堂DYホールディングス イノベーション創発センター イノベーション推進グループ グループマネージャー。AD+VENTURE事務局で制度を運営している。

  • 岡本岳大さん

    岡本岳大さん

    株式会社 wondertrunk & co.共同CEO。博報堂DYホールディングスの社員から、AD+VENTURE制度を利用し、会社を立ち上げる。

バックアップ体制が充実「AD+VENTURE」制度

――まずは「AD+VENTURE」制度について教えてください。

  • 大西さん

    大西さん

    AD+VENTUREは、博報堂DYグループ55社の社員から、広告業にとらわれない新規ビジネスの芽を集め、審査を通過したビジネスアイデアを本格的に事業化する制度です。採用された場合は、会社として立ち上げます。

  • 岡本さん

    岡本さん

    私の会社が立ち上がったのは、1年前でしたね。資本金などは親会社がすべて負担してくれました。

  • 大西さん

    大西さん

    親会社が支払うのは資本金だけではありません。1次審査を通過したアイデアについては、本腰を入れて事業計画作りをする時間を設けているのですが、需要のヒアリングや有識者からのアドバイス、モックアップ制作など、計画を作るために必要な調査費用についても、親会社から支給されます。社員は個人のお金を使う必要がないようになっているのです。

  • 岡本さん

    岡本さん

    実は、調査費用予算をオーバーしてしまったのですが、その分も払ってもらえました(笑)。

――資金面のサポートは心強いですね。ほかにもバックアップ体制はあるのでしょうか。

  • 大西さん

    大西さん

    事業計画を作る段階で、各チームにメンターの役割をするガイドが2名つきます。このガイドは投資や立ち上げなどのさまざまな分野のプロフェッショナルで、博報堂DYグループの社員から選抜されます。事業計画作りの際に、立案者へアドバイスやヒントを与える役割を担っています。

  • 岡本さん

    岡本さん

    実際は、ガイドの方と一緒に事務局の方がサポートしてくれるので、3人サポーターがいる状態です。ガイドの方にどれだけ協力を求めるかは、その人それぞれですね。

――制度への応募は、どのくらいあるものなのでしょうか?

  • 大西さん

    大西さん

    毎年70件前後で推移していますが、2、3回チャレンジするリピーターも多いです。性的マイノリティを表すLGBTに関する専門シンクタンクである「LGBT総合研究所(※1)」もこの制度で生まれています。

  • 岡本さん

    岡本さん

    今回応募したアイデアは、来年通過からのスタートでは遅すぎると思っていたので、今回通って良かったです。もし通らなかったら、このアイデアのために独立しようと思っていたんです。

本業での気づきが新しいアイデアにつながった

本業での気づきが新しいアイデアにつながった

――岡本さんが立ち上げたwondertrunk & co.は、どんな会社ですか。

  • 岡本さん

    岡本さん

    旅行・インバウンド専門の会社で、東京、京都、大阪以外を世界的な観光地にすることを目標にしています。事業の柱としては、2つ。1つは自治体や企業の海外へのPRやプロモーションのサポートをすること。もう1つは地域の体験や宿などの旅行コンテンツを作ることです。メインはあくまで旅なので、地域創生よりも、海外のメディアや旅行会社、クリエイターなど、ネットワークを活用したアプローチを重視しています。

――なぜ、事業にチャレンジしようと思われたのでしょうか。

  • 岡本さん

    岡本さん

    2005年に入社し、2010年から「ビジットジャパン」という海外から日本に観光に来てもらうためのキャンペーンを6、7年担当していました。これは日本全体をPRする仕事なのですが、海外の人が日本に旅行に来るとき、もっとピンポイントに地域を狙ってくることがあるなと思ったんです。そこで、もっと日本の地域を知ってもらう仕事がしたいと思い、同じ仕事をしていた現在の共同代表と一緒に応募しました。

――現業からアイデアを得たのですね。ちなみに、みなさんはチームで応募することが多いのでしょうか。

  • 大西さん

    大西さん

    一人で取り組むと、どうしても行き詰まることがあるので、事務局としてはチームで取り組むことを推奨しているんです。

  • 岡本さん

    岡本さん

    私の場合は自分を含めて3人で起案しました。ただ、時間のやりくりが結構大変で……。というのも、先ほど話した当時のメンバーが中国に赴任していたのと、もう一人一緒に立ち上げた影のメンバーはアメリカにいました。時差もあったのでアイデアをまとめるのに時間がかかりましたね。

  • 大西さん

    大西さん

    1次審査後の3カ月間を見ていると、そのチームの本気度がどの程度かよく伝わってくるんです。なので、この時期が社内起業できるかどうかの分岐点。本気のチームは、新規事業に対して自分の時間をどんどん使うんです。たとえば、2次審査ではほかのチームのガイド8人が審査を行うのですが、岡本さんは、ほかのチームのガイド全員に、話を聞いて回ったんですよね。

  • 岡本さん

    岡本さん

    はい。ガイドの方は全員違うバックボーンを持っているので、それぞれ違うアドバイスを聞くことができました。

  • 大西さん

    大西さん

    ガイドはみなさん、優秀な方ばかり。それぞれのアドバイス聞いてまわることは、計画のブラッシュアップにもつながります。

現業と事業計画づくりを並行は意外と大変じゃなかった!?

現業と事業計画づくりを並行は意外と大変じゃなかった!?

――事業計画を作る時期は、現業と事業計画、2つの仕事を同時にこなされていたんですよね。広告会社のお仕事はかなり忙しいイメージがあるのですが、どうやって乗り切ったのでしょうか。

  • 岡本さん

    岡本さん

    弊社のプランナーは、常に20個、30個ものプロジェクトを見ています。なので、最初はあくまで1つプロジェクトが増えた、くらいの感じでしたね。それに入社10年目ともなると、自分で手を動かすよりもディレクションが増えてくる。事業計画は、イチから自分で書いたり、あちこち回ったりすることができたので、「自分たちのもの」という感じを強く持つことができました。大変だったのは、中国にいるパートナーとの打ち合わせをどうするかくらいですね。

――打ち合わせなどはどのようにされていたのですか?

  • 岡本さん

    岡本さん

    ガイドや事務局の人を含めた打ち合わせを週1回、朝8時から定例として行っていました。打ち合わせが毎週あるので、そこで決めたことや挙がった課題は1週間の間に必ず進めるようにしていました。

社内起業で成功するために必要な要素は人が集まってくること

社内起業で成功するために必要な要素は人が集まってくること

――岡本さんは、現在どのような立場になるのでしょうか。

  • 大西さん

    大西さん

    実際は博報堂DYホールディングスへの出向の扱いですが、外部からは「社長」として見られます。

  • 岡本さん

    岡本さん

    だからか、最近この本社があるビルに来るときはちょっと緊張するんですよね(笑)。外部の会社のように感じてしまって。

――資金やガイドといった、通常では得られないサポートを手厚く得られる面は、この制度を利用する上でメリットだと感じたのですが、デメリットはなにかありましたか。

  • 岡本さん

    岡本さん

    そうですね……会社にお金を出してもらっているので、自分たちで株が持てないくらいでしょうか?

  • 大西さん

    大西さん

    博報堂DYホールディングスの事務局にお伺いを立てながら進める点には、歯がゆさを感じられるかもしれません。代わりに資金だけでなく、株主も会計士などもすべて、事務局がセッティングします。事業に100%専念できる環境なのです。

  • 岡本さん

    岡本さん

    私自身、社長なのに会社の件で銀行に行ったことがないんですよね。でも同世代で独立した人たちは、皆、お金についても考えています。その心配がない分、事業に集中できるのはありがたいですね。

――この制度を利用して、うまくいくチームにはどのような共通性がありますか。

  • 大西さん

    大西さん

    人が自然と集まってくるかどうかですね。岡本さんのwondertrunk & co.も、すぐ人が集まってきました。ベンチャーはアイデアしかないため、猫の手も借りたいほど忙しいんです。だからこそ、ほかの人が参加したいと思うような求心力がないと難しいですね。

  • 岡本さん

    岡本さん

    wondertrunk & co.は、いろいろな人が助けてくれており、コアメンバーじゃない人も含めると大きなチームになりました。旅を仕事にしたい、地域と世界をつなぎたい、そんな人たちが集まっているんです。

現場の人には事務局がフォロー

現場の人には事務局がフォロー

――会社として、ベンチャー企業を育てることで、現業とのシナジー効果などはありましたか。

  • 大西さん

    大西さん

    現在、まだ表面的にはコレという効果はありません。ただ、グループの中で現業とは違う分野で起業ができることがモチベーションアップや求心力につながっていると感じます。毎年まったく違ったタイプの会社が生まれてくるので、広告会社以上の多様性も実現できているのではないでしょうか。また若い世代の社長が生まれることで、彼らの同期にも刺激になっていると思います。

  • 岡本さん

    岡本さん

    私にも、以前この制度で事業を始めた同期がおり、いろいろアドバイスをもらったりしているんですよ。

――現場から人を引き抜くことになるかと思いますが、反発などはなかったのでしょうか。

  • 大西さん

    大西さん

    やはり制度で最後まで残る人は、現場でも優秀なリソースとなる人ばかり。最初の頃は、小さいベンチャーを立ち上げるよりも10億20億の仕事が重要だろう、という無言の圧力もありました。しかし、中長期的な視点でグループとしてのメリットもあるので、快く送り出してほしいと事務局が話して回って、春から始動できるようにしています。

事業の状況次第ではクロージングするも、戻れる場所がある

事業の状況次第ではクロージングするも、戻れる場所がある

――もし、事業がうまくいかなくなったら会社に戻る人もいるのでしょうか。

  • 大西さん

    大西さん

    はい。その場合、元の会社に戻って、現業を行ってもらうことになります。とくに最初の1年間は、新会社にとってもテスト期間。この時期に当初思ったほど伸びなかったり、これ以上続けても市場としての見通しが立たないと事務局が判断した場合は、事業を清算します。

――事務局が数値もきっちり監視しているのですね。事業を閉じることで、社員の方にはダメージはないのでしょうか。

  • 大西さん

    大西さん

    できるだけうまく進むようにバックアップをしていますが、やはり外部環境や競争環境の変化などで想定通りいかないこともあります。たとえ清算することになっても、企業の経営者として人材や数字の管理をした経験は、その後のキャリアにとってもプラスに働くと考えています。

    それは事業が開始できた場合だけではなく、このAD+VENTUREにチャレンジした人すべてにいえること。弊社代表の戸田がこのAD+VENTUREのことを「甲子園」と呼ぶんですね。それは、出場しても、ほとんどのチームが負けるから。でも、負けたとしても、自身の中で「甲子園(AD+VENTURE)に出た」という自負は持てます。キャリアにとってプラスになる経験になるのです。

※1 LGBT総合研究所
博報堂DYグループによるLGBTを含む性的マイノリティ(以下、LGBT)に関する専門マーケティングエージェンシー。LGBTに代表されるセクシャルマイノリティに関する専門シンクタンクとして、企業や自治体のLGBTに対するCSR活動からマーケティング活動までのサポートを一貫して実施する。

(取材・文:ミノシマタカコ 編集:ノオト)

  • ライター:ミノシマタカコ

    WEB企画・ディレクション・運営業務等を経験し、2012年より自営業に。現在は主にライター/WEB編集として活動中。狛犬愛好家。

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