youtube facebook google rss search twitter chevron-top chevront-left chevron instagram line hatena

Freee

農水省を辞めて宿泊事業へ 「Little Japan」柚木理雄さんが目指すゲストハウスの新たなステージとは?

空き家となった住居をリノベーションし、増加する外国人旅行者の交流拠点を作る――。「地域と世界をつなぐ」をコンセプトに、ゲストハウス「Little Japan」を立ち上げた柚木理雄さん。農林水産省の職員を辞して宿泊事業に参入した根っこには、地域に埋もれるリソースを有効活用し、さまざまな価値観を持つ人たちが集まり、新しい何かを生み出す「場」を作りたいという思いがありました。

ヒトとモノ、コトをつなぐLittle Japanをベースに、一つのキャリアや場所にとらわれない生き方をアシストするコミュニティや事業も生まれているのだとか。フットワーク軽く、新たなビジネスにつなげる発想はどこから生まれ、どのように推し進められているのか。柚木さんの背景にあるキャリア、そして今後のビジョンを聞いてみました。

地域に開かれたゲストハウスのねらい

――2017年5月、東京・浅草橋にゲストハウス「Little Japan」がオープンしました。外国人に人気の浅草、両国に近く、秋葉原からも徒歩圏内。絶好のロケーションですね。

東京の人気タウンに近いのも大事ですが、日本の各地を訪れやすいという立地条件もあって、ここを選んだんです。成田空港、羽田空港、東京駅にもアクセスしやすい。

「小さな日本」という意味を込めたLittle Japanでの滞在を通して、日本のさまざまな「地域」を感じていただきたいと考えています。

――北海道や軽井沢だけではなく、外国人観光客が訪れる観光スポットも多様化していますからね。具体的にはどのような取り組みを行なっているのですか?

まず一つが、「Meet Locals」――地域と世界をつなぐという意味です。Little Japanは2~4階が宿泊スペースですが、1階はカフェ&バーとして営業しています。いろいろな自治体やNPOと連携し、地域の食材を使ったイベント、課題を解決するワークショップなどを催しています。

そして、もう一つの「地域」は、ゲストハウス周辺を指しています。浅草橋の町会の方、近隣住民の方同士とゲストをつないでいきたいという思いがあります。

Little Japanのある町会の方からは、新しい人に入ってきてもらいたいという声を耳にします。ただ、旅行者はもちろん、新しく住み始めた人、特に海外の方はコミュニティへの入り方がわからないケースが多いのです。地域に根ざしているLittle Japanだからこそ、旅行者や新しく住み始めた方にとっての「地域への入り口」になっていきたいと考えおり、台東区さんとも協働して実現していく予定です。

――「地域と世界をつなぎたい」というコンセプトには、自身の体験が反映されているそうですが。

そうですね。私は、大学生のときにバックパッカーとして40か国以上を旅しました。日本、地域と世界をつなぎたいという思いは、その体験が原点かもしれません。

でも、京都の大学院時代にゲストハウスで住み込みのアルバイトをしたんですが、その時の方が旅行よりさらに楽しかった。いろいろなバックグラウンドを持った人たちが集まり、知らない国の話をしてくれる。刺激的な発見に満ちた時間でしたね。そして、コミュニケーションの重要性も学びました。ゲスト同士が仲良くなったり、自分が住んでいる街をゲストに喜んでもらえたりしたのもうれしかった。

――ゲストとして滞在するより、ホスト側としてもてなすのが性分だった、ということですね。

「Come as a guest, go as a friend」(ゲストとして訪れ、友だちとして帰る)。これが、私たちがゲストを迎えるときの思いです。バックパッカーとして旅をする中で出会った人が歌っていた一節として、強く記憶に残っています。

ゲストハウスをやっていると、何度も泊まってくれて「おかえり」「ただいま」と言い合えるつながりもできてきます。ゲストにとって、「宿と家の間」のようにくつろいでもらえる場所、新しい関係性が生まれる場所になれれば。Little Japanはそんな空間を目指しています。

農水省官僚のキャリアから起業した理由とは

――起業前にさかのぼると、大学院を終えた柚木さんは農林水産省に入省しました。有望なキャリアからゲストハウス事業は急激な方向転換に思えますが?

私がキャリアについて深く考えたきっかけは2011年の東日本大震災でした。それまでは、アメリカに留学して、外資系コンサルや国際機関にでも行って、のような官僚っぽいキャリアを考えていました。しかし震災が起こり、そこで多くのNPO、NGOが復興のために活躍する姿を目にしたんです。

――草の根的な活動に目を向けられたわけですね。

ええ。価値観がさらに多様化していく中で、NPOのような取り組みはますます活発になり、それに比して国の役割はどんどん小さくなっていくと考えるようになったんです。

また、国や東京都への一極集中が日本を駄目にしていくんじゃないかという思いもありました。それを強く感じたのは、小学1~3年までブラジルに住み、帰国子女として日本の小学校に通い出した時に味わった同調圧力でした。何でも同じにしなければ、均一にしなければ。そんな常識に、私はすごく戸惑ったことを覚えています。

――いろいろな国から、さまざまな価値観を持った人が集まり、新たな何かを産むLittle Japanには、柚木少年が抱えた想いも反映されているのですね。東日本大震災後はどんな一歩を踏み出されたのでしょうか。

休暇で訪れたバングラデシュで、社会問題をビジネスとして解決する「ソーシャルビジネス」に出会い、関心を持っていきました。そして立ち上げたのが、ソーシャルビジネスの人たちが住むシェアハウスを手がけるNPOです。

――農水省でも、グランドデザインを作りながら、大きく方向づけていくというアプローチも考えられたかと思いますが。

国などの大きな組織ができないこと、ニッチではあるが大切なニーズに応えていくこと。東日本大震災の時に感じたように、それこそNPOが果たすべき役割です。小さくても価値があるものを作っていきたい。そこでフォーカスしたのが地域の活性化、地域創生。特に空き家を活用したコミュニティづくりでした。

東京への一極集中ではなく、地方でも面白く特徴的な街がもっともっとできていくはず。そのためには、国が全てやるのではなく、地方自治体、NPO、民間企業が、特徴的な街をそれぞれ作っていかなければならないと思ったんです。

国の役割が重要だと思っていることには変わりはありません。ただ、中央には人が集中している。今必要とされているのはなんなのかを考えた時に、農水省を離れて起業したのは、私にとって実に自然な選択だったのです。

――なるほど。その選択を経て、農水省時代と起業後で、最も変わったことは何ですか?

ゲストハウスでは、誰のために何をやっているのか、非常に近いところで感じられます。農水省で働いていたときは、誰のために何をやっているのかわからない。それぐらい、届ける相手が遠かった。相手を「国民」と呼ぶ時点で遠すぎですよね。しかし、今は、サービスをして喜んでくれる存在が目の前にいますからね。

キャリアにも場所にもとらわれない。新しい働き方、生き方のために

――2018年2月には、自由な住み方を提案する取り組み「ホステルパス」の販売を開始されましたね。

当初のホステルパスは「日曜日~木曜日に泊まり放題」というものでした。そして、10月からは金曜・土曜も加えて「全曜日いつでも泊まり放題」というプランもスタートさせました。そして、「ホステルパス」というメンバーカードを持つことで、登録している全国のホステルが泊まり放題になるサービス「Hostel Life」というプランも始めています。

今まで家は一つなのが当たり前でしたが、たくさんの家を持てるようになることで、より自分に合ったライフスタイルを実現できるきっかけになればと思っています。誰もが気軽に利用できるように、月額1.5万円~と価格もリーズナブルに設定しました。

たとえば、満員電車で長時間かけて通勤していた方がホステルパスを利用すれば、時間も体力もお金も節約できて、趣味や勉強、副業などもできます。逆に、住みたくもない都心に高い家賃を払って暮らしている方は、週末だけの家を郊外や地方に持って、平日はホステルから職場に通うこともできます。多拠点という選択肢が増えると、個人個人が理想とする暮らしが実現できると思うので、これからどんなライフスタイルが生まれるか楽しみです。

――確かに多拠点でワークライフをされている方も増えてきていますよね。

Little Japanの常連には、宮城県色麻町でまちづくりのNPO法人を運営している菅原一杉さんという方がいらっしゃいます。月の半分は東京に滞在しながら、色麻町のPRをしたり、イベントを企画したりしている。Little Japanに滞在している間は外国人旅行者とふれあい、コミュニケーションを楽しんでいる。地方に移住しなくても、菅原さんのように地方と東京の2拠点を楽しむような方が増えれば、東京への一極集中も緩和されるのではないかと思っています。

――いきなり「地方暮らし」「移住」というとハードルが高いですが、まずはホステルから始めるという選択肢もありそうです。

そうですね。ホステルを拠点にしながら気軽に旅をしたり、自由に多拠点暮らしができたりするようになれば、地方のビジネス、地方の暮らしに関わりたいという人はもっと増えるんじゃないでしょうか。

私たちも地方の活性化を掲げてはいますが、地方に流動的になる方々すべてが、必要以上に「やりがいある仕事」を求めることはない、と思います。住環境だったり、家族とゆったり過ごせるワークスタイルだったり、豊かな自然だったり、地方の暮らしを志向する方は決してやりがいばかりを目指しているわけではありませんからね。

――定められたキャリア、場所にとらわれない柔軟な生き方・働き方をアシストする場としてLittle Japanには期待が集まりそうです。

はい、Little Japanの取り組みは、既存の枠組みにとらわれない地域創生、そして社会問題の解決につながると考えています。

今後もゲストハウスの新たなサービス、そして新たなビジネスを考え、多拠点生活、旅するような暮らし、ホステル暮らしなど、さまざまなライフスタイルをアシストしていきたいですね。

(取材・文:佐々木正孝 編集:阿部綾奈/ノオト)

  • 柚木理雄さん

    取材協力:柚木理雄さん

    株式会社Little Japan代表取締役、NPO芸術家の村理事長。兵庫県神戸市出身。小学1年~3年生までブラジルで過ごす。京都大学在学中はバックパッカーとして海外40カ国以上を訪問し、フランスに1年間留学。2008年に農林水産省に入省し、国際交渉や6次産業化、バイオマスなどに携わる。2011年の東日本大震災をきっかけに草の根活動の重要性を認識し、NPO法人芸術家の村を立ち上げる。2017年1月末に農水省を退職し、2月に株式会社Little Japanを設立。5月には東京・浅草橋にゲストハウス「Little Japan」をオープン。2018年11月にホステルパスをもつことで全国のホステルに泊まり放題になる「Hostel Life」をリリース。

     

    <Little Japan>
    http://www.littlejapan.jp/

    <Hostel Life>
    https://hostellife.jp/

  • ライター:佐々木正孝

    ライター/編集者。有限会社キッズファクトリー代表。情報誌、ムック、Webを中心としてIT、マネー、不動産などに関する記事を執筆している。

Ranking