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個を活かすゆるやかなつながりを体現 クリエイティブレーベル「nor」が前進し続けられる理由

本業とは別にチームを組んで何か別の活動をしたい……。そう思っても、スケジュールの都合があわなかったり、気持ちの温度差があったりすると、なかなか物事が進まないことがあります。

そんななか、構成メンバー全員が本業を持ち、誰が上、下といった関係もなく、自主的に集まりハイクオリティな作品を発表し続ける集団がいます。それがクリエイティブレーベル「nor(ノア)」です。

これは、今年(2017年)の六本木アートナイトで展示された作品の一つ「dyebirth(ダイバース)」。建築家やデザイナー、音楽家、エンジニアなど、さまざまなバックグラウンドを持つ彼らは、一体どのようにして本業とオリジナルワーク(クリエイターがクライアントワークとは別に創作活動を行うこと)を両立しているのか。そしてフラットな関係でも活動を円滑に進めるコツとは? こうした疑問を彼らにぶつけてみました。

お話を伺った人

  • 林重義さん

    林重義さん

    プロデューサー

    本業はPARTYのプロジェクトマネジャーとして、テクノロジーを使った「新しい体験」を提供している。norでの役割はプロデューサーとして、さらに新しい体験を作るために今まで出会ったことのない人や場所に、アート文脈・アカデミック文脈・ビジネス文脈と複合視点でアプローチし、norの活動を広げること。

  • 中根智史さん

    中根智史さん

    ハードウェアエンジニア、ワークショップデザイナー。

    TechShop Japan 教育・イベントコーディネーターとして、場を活用したイベントやワークショップの運営を行う。メーカーでのパソコン筐体設計の経験も生かし、norではハードウェア・エンジニアとしてデバイスの設計や製作などを担当する。

  • 小野寺唯さん

    小野寺唯さん

    作曲家、サウンドアーティスト。武蔵野美術大学/立教大学兼任講師。Invisible Designs Lab:サウンドプロデューサー。

    サウンドアート、電子音楽の分野で国際的に活躍。国内外の広告音楽からプロダクトやデバイス、インタラクティブコンテンツのためのマルチチャンネル立体音響など多様なプロジェクトを手掛ける。norでは作品のコンセプト段階から最終的な空間での最適な音作りまで、総合的なサウンドプロデュースをする。

  • 板垣和宏さん

    板垣和宏さん

    建築家、エクスペリエンスデザイナー。

    建築・インテリアを中心に、空間づくりのデザイン全般を行う。norでは作品を効果的に体験するための作品配置やを考えるほか、展示を最適化するために空間自体をカスタマイズする場合もある。

他分野への強い好奇心が「一緒にできる」と思った原動力

――みなさんの出会いは2016年に開催された「3331α Art Hack Day 2016」というアート制作に特化したハッカソンと伺いました。まずはnorができた経緯を教えてください。

  • 林さん

    林さん

    ハッカソンで制作した作品が最優秀賞をいただいて、3331 Arts Chiyodaに優秀作品である「SHOES OR」を展示できることになったんです。

    でもそのままその作品を出すよりも、新作を作りたいという気持ちで全員が一致。それなら、自分たちに名前を付けて世の中をざわつかせるチームとして出したいと思い、クリエイティブ“レーベル”という組織体を考えました。

    そこでICC(NTTインターコミュニケーション・センター)での展示につながる「herering(ヒアリング)」が生まれました。


「3331α Art Hack Day 2016」で最優秀賞を受賞した「SHOES OR」

  • 小野寺さん

    小野寺さん

    レーベルの方が、チームよりも緩いつながりのイメージがありますよね。コアメンバー以外の人が入ってもいいし、作品ごとにメンバー構成を変えることもできる。そうした柔軟性もあった方が、僕たち自身が活動しやすいと考えました。

  • 林さん

    林さん

    先日の六本木アートナイトでは、筑波大学の科学者である菱田さんを新規メンバーとして作品を作り上げました。自分たちの実現したいものをどうすればできるか。レーベルという形態なら、作品ごとに変容することができるのが、ほかの組織体ではできないことだと思います。

――ハッカソン後もこの人たちと一緒に活動できると思った理由は何でしょうか。

  • 林さん

    林さん

    僕は「何を作るか」より「誰とつくるか」で成果物の質や成長の度合いが変わると思ったので、チーム編成するときに、デザインや空間、音楽、エンジニアリング、プランニングと、すべてのピースが集まるようにチームビルディングを気にして参加していました。

    ディスカッションしたときに、チームメンバーの作ってきた作品がすごくて、まず嫉妬しましたね(笑)。

    僕がもっていないところもあって尊敬すると同時に惹かれるところがあったので、もしかすると、この人たちとだったらクリエイティブに対して、もっと濃密な凝縮された時間をかけて、じっくり煮詰めるように作品づくりが出来るのではと思いました。

  • 板垣さん

    板垣さん

    ハッカソンのプレイベントのときに、デザイン担当のカワマタくんと、プランニング担当の福地くんと会っていて、その時に「チームビルディングが大事だよね」という話をしていたんです。

    ハッカソンの本番でもその二人と一緒にやることになり、バランスの良いチーム作りを意識していましたが、メンバーを集めてみるとハードウェアエンジニアがいない。そこでカワマタくんが中根くんに声を掛けました。

  • 中根さん

    中根さん

    僕が参加した経緯は、ちょっと特殊です。勤めているTechShopがハッカソンのスポンサーだったこともあり、最初はディスカッションの様子を外から見ていました。

    カワマタくんは以前勤めていた会社の同期で、それで声をかけてくれたんです。実は初めから加わりたいと思っていたので、喜んで参加しました(笑)。

  • 小野寺さん

    小野寺さん

    みんながみんな、自分とは違う分野の人たちと協働したい。そうしたモチベーションが高かったことが「一緒にやりたい」と思えた理由でしょうね。

上下関係のないフラットな関係でモノづくりをする上で重要なこととは

――それぞれに専門分野があり上下関係がない場合、作品づくりはどのように進むのでしょうか? 指揮を執る人はいますか?

  • 板垣さん

    板垣さん

    全体の進行管理は、林さんがしてくれていますね。

  • 林さん

    林さん

    まずは作品として”何”を生み出すかも考えるのですが、作ることだけではなく、作品をより多くの人に体験してもらえる“場”をセットでアプローチを考えます。

    それには、僕達の作品づくりに共感してくれる協力者が絶対的に必要です。作品づくりでは僕らは無茶なことしか言わないので、その提案に乗ってきてくれる人が欠かせません。

  • 小野寺さん

    小野寺さん

    そうしたマスタープランに基づいて、それぞれが何をすべきかを考え、自発的に行動を起こします。

  • 中根さん

    中根さん

    だからといって、決して一人よがりで進めるわけでもないんです。本業だと、専門家に「それはどうなの?」とツッコみづらいものですが、ここではそれぞれがプロフェッショナルであると同時に全員が対等な立場。他分野についても納得がいくまで話し合います。

  • 林さん

    林さん

    たとえば、ハードウェアに対してデザイナーやアーキテクト担当が口を出したり、ツッコミを入れたりするんです。

    正直、物事がスムーズに進むかどうかの観点で見ると非効率です。

    でも、本業では普段見ることのない、クリエイターのモノづくりの悩みや苦しみを早々にアウトプットして「これ、どう面白い?」「これ、すごい?」とプロセスを共有しながら体験できる面白みがあるので捨てがたいんですよね。

  • 小野寺さん

    小野寺さん

    みんな他分野への興味が強いので、ほかの分野にも意識して関与するようにしているのもありますね。互いに学び合って、スキルを底上げしている。面倒だけど得難い体験でもあって。僕ら自身を成長させてくれている部分でもあるんです。


「ICCオープン・スペース 2017未来の再創造」に出展中の「herering」

――一人ひとりが専門家だと、その人が参加できない場合はどうされるのでしょう?

  • 林さん

    林さん

    それぞれの専門分野はありますが、興味がある内容に対して、お互いに侵食しながら進めていますね。

    たとえば、音楽家の小野寺さんがPRやコンセプトの文章を書いたり、ハードウェアエンジニアの中根さんが3Dでプロダクトデザインに取り組んだり、建築家の板垣さんがコンセプトをつめてくれたり。

    役職が流動的に入れ替わる。これがnorの特色だと思います。

  • 中根さん

    中根さん

    本業の仕事が活動日と重なって穴が開くことも多々あるので、スケジュール管理は大切です。事前に予定を把握してみんなでフォローしあいます。

  • 小野寺さん

    小野寺さん

    専門分野だけに閉じこもってしまったら、可能性も閉じてしまう。専門分野以外でも、興味を持ったところには飛び込んでみて、そこで知見を広げる。

    作る人間も作品自体も領域横断的な姿勢がなければ今の時代においてそもそも新しいモノは生み出せないと思います。

  • 板垣さん

    板垣さん

    自分の領域外のこともやってみると、実は案外できるんですよ。みんながそれぞれ日常の仕事の場面でいろいろな経験を積んでいるからだと思います。

オンラインツールを活用するものの、モノづくりは体力勝負になる現実

――みなさん本業がある中で、どのように時間を捻出しているのでしょうか?

  • 小野寺さん

    小野寺さん

    寝ないとか(笑)。

  • 板垣さん

    板垣さん

    以前は平日、仕事が終わった後に20時頃から3時間ほど集まっていたのですが、最近は土日に昼から終電までの長時間、時間が取れるようにスケジュール組んで活動するようになりましたね。

  • 中根さん

    中根さん

    実験や検証をするときに3時間しか時間がないと、準備や片付けに時間がとられてしまう。その方法は非効率だったので、土日にしっかり時間を取って行うようになりました。

  • 林さん

    林さん

    あとはこまめにオンラインでコミュニケーションを取るなど、対面して会えないことを逆手に効率化できるところはそれを意識していますね。

  • 板垣さん

    板垣さん

    ただ、初期コンセプトが固まるまでは、1~2週間に1回程度、顔を合わせてディスカッションをしています。オンラインも併用しますが、コンセプトの詰めや制作が追い込みになると、さらに会う頻度は高くなります。

  • 小野寺さん

    小野寺さん

    課題を持ち帰って、集まっての繰り返し。でもどこかでカチッと合うタイミングが来るんです。やはり見たことがないものをつくるので、どうしても時間はかかります。自分たちもやったことがないことをやりたいという思いが強いので。

  • 中根さん

    中根さん

    アイデアが固まるとプロトタイプの実験が始まりますが、大抵の場合は方向性の見直しが発生します。やってみないとわからないことが多いんですよね。

  • 林さん

    林さん

    「dyebirth」は、水やインク、化学物質などを電子制御することで絶えず模様を描き続けるインスタレーション。どうしたら理想を実現できるか、いろんな液体や化学物質で、まずは自分たちが体験者として感動できるレベルになるまで実験を繰り返します。

    「アイデアよりも体験を重視する」。それは新しい体験になっているか、見たことがないものを作り上げているか、そのために気が遠くなるほど。試してダメなものは、たとえ最初に考えていたアイデアでも捨てて切り替える。そんな風に、何百時間も繰り返し検証を行いました。

  • 小野寺さん

    小野寺さん

    発表するまでの間はとても大変ですが、来場者が「わー!」と興奮しているのを見ると、また早く次の新しい作品を作りたいなと思いますね。

  • 板垣さん

    板垣さん

    とはいえ、さすがに体力の問題もあるので、今後は作品のクオリティを保ちつつ効率をどう改善するかは考えていくべきと思っています。今のやり方を続けていくと、リソースが不足した時には作品のクオリティが下がることになってしまいますので、それは避けていきたいです。

普段は接しない分野に触れる刺激が本業に生かされる

――norの活動は本業に何かメリットをもたらしましたか?

  • 小野寺さん

    小野寺さん

    普段接しない分野や世代の情報に触れられる点は刺激になっています。それと作曲の場合、どうしても自己の内面と向き合いながら一人で仕事をすることが多くなるので、同時に大人数で何かをする機会がなかなかないんです。なので単純にコミュニケーションの勉強にもなっていますね。人間力の部分も含めて、影響を受けていると思います。

  • 板垣さん

    板垣さん

    メンバーそれぞれアンテナを張っている場が違うので、いろいろな情報をもらえるのはやはり面白いです。また、自分の場合は仕事柄チームで行うことが多いですが、仕事の時とコミュニケーション方法が違うのは面白いですね。

  • 林さん

    林さん

    コミュニケーション方法でいえば、本業では課題に対して固定されがちな手法に陥りがちです。norでは実験的に新しい手法を試してみて、そこで得た知見を本業に活かせるのはメリットですね。

  • 中根さん

    中根さん

    表現方法や条件の制約など、毎回チャレンジングな項目があるので、それに伴ってモノ作りのスキルも向上していると思います。

――こうした活動をしてみたいという人に、アドバイスをお願いします。

  • 板垣さん

    板垣さん

    ある種、部活やサークルみたいなものだと思っています。自分たちに必要なアドバイスをもらえる人を探したり、作品制作に必要な情報を深堀して勉強したり、手探りな制作が楽しいし、刺激的です。もちろんアウトプットをしっかり出すこと、クオリティを担保することは大事ですが、そのプロセスを楽しんでいます。

  • 中根さん

    中根さん

    応援してくれる方が周りに多くいるのもありがたいですね。自分たちだけではできないことも多いので、巻き込む人が多いほど活動の幅も広がると実感しています。

  • 小野寺さん

    小野寺さん

    決して僕らが特別だとは思っていなくって、積極的に学びを得ようとする姿勢があり、同じような志を持った人が集まれば、誰にでもできることだと思います。もちろん、自身のセンスを鍛え続ける情熱は必要ですが。

  • 林さん

    林さん

    宣伝になりますが(笑)、11月19日(日)に神田錦町で行われる「「デザインとテクノロジーで街を変えよう」をテーマにしたイベント「dotFes(ドットフェス)」で、「dyebirth」を展示します。ぜひ、一度見に来ていただければ!

 

(取材・文:ミノシマタカコ 編集:ノオト)

https://vimeo.com/207891326

  • nor

    取材協力者:nor

    クリエイティブレーベル「nor」の名前の由来は、数学のn進数とorを合わせた「n + or」、論理演算子で定義されていない集合を表すnor、そしてノアの箱船のノアと3つの意味がある。

     

    クリエイティブ・ディレクター:nor
    プランナー:福地諒
    ハードウェア・エンジニア:中根智史
    ソフトウェア・エンジニア:松山周平
    サウンド・プロデューサー:小野寺唯
    アーキテクト/エクスペリエンス・デザイナー:板垣和宏
    デザイナー・モチベーター:カワマタさとし
    プロデューサー/プロジェクト・マネージャー:林重義

     

    ▼nor https://nor.tokyo/

  • ライター:ミノシマタカコ

    WEB企画・ディレクション・運営業務等を経験し、2012年より自営業に。現在は主にライター/WEB編集として活動中。狛犬愛好家。

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